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「京都 手しごと案内帖」普段の仕事場からVOL.21

白生地 パート1これまでは京友禅の板場の仕事を中心にお話してきましたが、今回は染色する為の素材である白生地の話をさせて頂きます。きものは様々な素材から作られています。麻、木綿、ウール、化学繊維など用途に合った様々な素材できものは作られていますが、その中でも絹はきものの素材の代表格と言えるでしょう。絹で織られた生地はとても柔らかで美しい光沢を持っており染め上げると他の素材では味わえない高級なきものが出来上がります。白生地の産地は、全国各地にありますが、白生地の三大生産地として絹織物の産地で有名なのは、京都の丹後地方で有名な「丹後ちりめん」です。次いで、滋賀県の長浜地方で有名な「浜ちりめん」があります。丹後と長浜は主に縮緬生地を織っていますが、新潟県の五泉市では絽と羽二重を主力に生産してます。中でも絽の生産量は、全国一です。一反の白生地が出来上がるまでに約15坪の桑園で2700頭の蚕で桑の葉96㎏を消費し、2600粒の繭を作り出します。その繭から約900gの生糸が生産されます。その生糸を使用し一反(680g)の白生地が出来上がります。この生産工程により絹が高級素材であることがよく分かります。近年は、生産量も激減し非常に貴重な素材になっております。糸にも種類があります。生糸、玉糸、紬糸、絹紡糸などがあります。・生糸は、繭からとった生の糸です。・玉糸とは、2匹の蚕によって一つの繭を作りそれを紡いだ糸です。・紬糸は、くず繭から紡いだものを言います。くず繭とは真綿の原料になるものです。・絹紡糸とは、生糸のくず糸をカットして紡績したものです。(紡績とは、短い繊維を長い糸に紡ぐことです)絹織物には色糸を使用して織る先染織物と、製織した白生地を染め上げる後染織物があります。白生地にも種類があります。きものの種類によって染める白生地の種類が変わります。この続きは次回の白生地パート2でお話させて頂きます。

「京都 手しごと案内帖」普段の仕事場からVOL.20

 仮絵羽 
今回は、仮絵羽をお話させて頂きます。 仮絵羽とは、訪問着や振袖など反物の状態では、柄のイメージが分かりにくい着物を仮縫いして着物の形に仕立てた着物の事をいいます。 仮絵羽の状態にすることにより柄のイメージが出来るので留袖、色留袖、訪問着、振袖などの着物は、仮絵羽の状態で展示会やお店に陳列されます。 それでは仮絵羽の工程を説明していきます。 まずは一反の生地を袖2枚、上前、下前、衽、襟の部分に分けて裁断します。衽は、生地の真ん中を裁断するため慣れないととても難しい仕事です。そして、着物の裾の裏側には、別生地の八掛を付けます。八掛とは、前後の身頃の裾裏に4枚、衽の裏に2枚、襟先の裏側に2枚、合計8枚付ける事から八掛と呼ばれています。 歩く時に裾などから少し見えるため色々な色で染めます。柄が入ってる八掛もあります。 裁断した生地は、仮絵羽を仕立てる内職の縫い子さんに縫ってもらいます。 ほとんどの縫い子さんは、女性です。 最近では、縫い子さんをされる方がずいぶん減り若い縫い子さんがほとんどいません。そのため針の糸を通す作業にも時間がかかります。 本仕立てとは違いますが、仮絵羽とはいえ1枚縫うのに熟練の縫い子さんでも一針、一針丁寧に縫うため何時間もかかります。とても根気のいるお仕事です。仮絵羽が完成すると最後に留め針の忘れなどを確認するため着物を検針器にかけます。以上の工程を経て仮絵羽の完成です。 京友禅は分業で成り立っており、それぞれの工程の技術者は、高齢化してます。 早急に伝統技法を若い職人に伝えないと分業で成り立っている京友禅の未来はありません。次回は、 白生地 を説明させて頂きます。

「京都 手しごと案内帖」 普段の仕事場から VOL.19

地直し 今回は,地直しについてお話しします。 地直しとは、いわゆる補正作業で,着物を染色する際に生じた不具合をチェックし、染めむらやしみをきれいにする仕事です。 着物に付着してしまった、どうしても落ちないシミ等は、地直しと言われる方法で修復します。まず最初に、シミの部分を完全に脱色して白地に戻します。そして、新たに周囲の色目に合わせて、色挿し(いろざし)をします。この色に何を加えればこの色になるかを計算して色合わせをします。友禅職人でさえ、自作の着物に色飛びをしてしまったり、不可抗力のシミをつける事はあります。その際、地直しの専門家にお願いをします。地直しは、色合わせの名人で、永年の経験が必要とされます。染み抜きに3年、色の補正には10年程の経験が必要と言われております。色の調合もさることながら、挿す生地の種類によって発色が微妙に違います。その日の温度、湿度など天候にも左右される、とてもデリケートな仕事です。派手さの無い職人技に業界関係者の多くが尊敬の念を抱いています。訪問着や留袖など無地の場面が多い着物を修復するには、無くてはならない技術と言えます。 次に,染色補正技術の基本工程を説明致します。まず,生地の状態を様々な角度から確認した後、染料が浸透した箇所に薬品を丁寧に筆でつけていきます。次に熱を加えながら、脱色作用を高めていきます。生地の状態を確認しながら、負担をかけないように注意することが重要です。中和して、繊維の中に入り込んだ薬品が残らないように念入りににすすぎ出します。脱色した事によって、地色の染料も抜けて白い状態になります。白く抜けた箇所を修正する為に、まず初めに一番大事な色の調合をします。周りの色と違和感が出てしまわないように染料をかけ合わせて色を調合する重要な作業と言えます。色の調合をした後、職人の手技で丁寧に色をかけていきます。どんなに小さい箇所でも、筆先を絶妙に加減しながら周りの色と違和感のないように修正します。周りと違和感が出てしまわないように、色々な角度から生地と色をかけた箇所を何度も見ては、加減をしていき色を修正して終わりです。 他に、はき合わせという補正方法があります。着物が製品なってからの色焼けや、合口(あいくち)という場所の色違い、これらの不具合を元に修復する為の色掛けの手段のことをはき合わせと言います。染料を含ませた刷毛を掃くようにして色を合わせたことが語源と言われています。今では,エアーブラシを使用する等、機械化も進んでおります。 手作業で着物を染める工程上、着物にしみを付けてしまうのは,ある程度仕方がないことと言えます。そのようなことから、着物製作には「地直し」工程が必要不可欠と言えます。しかし、綺麗に地直しするには、長年の経験とセンスが要求されます。この道数十年といえども、センスがなければ仕事の依頼が少なくなります。職人の手技の善し悪しが、仕事量に色濃く反映されるのが地直しと言えます。 次回は,仮絵羽(かりえば)について、お話しします。

「京都 手しごと案内帖」 普段の仕事場から VOL.18

手刺繍今回は手刺繍について説明させて頂きます。刺繍の歴史は大変古く、5世紀の頃に仏教文化と共に大陸からわが国に招来されたといわれております。最も古い現存している刺繍は天寿国曼荼羅縫帳と呼ばれる作品で国宝として奈良の中宮寺に伝えられております。この縫帳は聖徳太子のご冥福を祈って製作されたものといわれております。手刺繍の技法はたくさんありますが、今回は着物に使用される代表的な三技法、相良繍い、まつり繍い、駒取り繍いを説明させて頂きます。相良繍いは生地の表面に刺繍糸の結び玉を作る繍い方です。着物に家紋を刺繍するとき、訪問着の仕上げや花の柄の芯を繍うときに多く使用します。まつり繍いは細い線の柄を繍うときに多く用いられる技法です。刺繍する範囲を繍い埋めるようにすることが多く、範囲によって糸の太さを使い分けることが必要です。駒取り繍いは着物では柄の輪郭に使用されることが多い技法です。主に金糸や銀糸の太い糸を別の細い糸で繍い止めるようにします。この際、太い糸を“置き糸”、細い糸を“とじ糸”と呼びます。振袖などを豪華に引き立たせる技法です。職人さんの繊細な技量と計り知れない経験がなければ成立しない技法のひとつです。次回は地直しについてお話します。

「京都 手しごと案内帖」 普段の仕事場から VOL.17

刺繍今回は、刺繍について説明させて頂きます。刺繍は着物を装飾するのに欠かせない工程です。金彩と同じくアクセントとして多様な着物に使用されています。着物の配色や技法により個性や写実的な図柄を多彩な糸を使って立体的に表現でき、着物を豪華にするだけでなく華やかさももたらす重要な工程の一つです。刺繍の種類は沢山ありますが、今回はミシン刺繍の二技法、駒刺繍と横振り刺繍を説明させて頂きます。駒刺繍は昔、刺繍針に通せない太い糸や金糸などを木製の駒(糸巻きの一種)に巻いてそれを転がしながら刺繍糸を下絵に沿ってはわせ、綴糸(とじいと)で留めていました。今は、金駒専用のミシンで縫っています。駒取りとも呼ばれています。金糸を使ったものを金駒刺繍、銀糸を使ったものを銀駒刺繍と言います。金糸も昔と違って、原材料も高価になって仕入れるのが困難になりました。現在ほとんどが、金糸を使った金駒刺繍です。古典柄によく使われて、中でも中太の線や円の線などによく使われています。豪華でとても人気の刺繍です。次に横振り刺繍を説明させて頂きます。横振り刺繍とは、針が左右に動く横振りミシンを使い、図案を見ながら職人の手で直接生地に柄を描いていく日本独自の技法です。足元にあるペダルを踏み込む強さを調整しながら刺繍の振り幅が変化する横振りミシンを使います。金駒刺繍とは違って、多色の糸を使って縫うことができるのでモダン柄や華やかで大きな柄などによく使われています。最終工程としてアイロン掛けをしてシワを伸ばし生地に定着させます。着物の柄に応じた刺繍を縫うのも職人さんのセンスが問われるため、やはり熟練した職人さんに頼らなくてはなりません。若手職人を早急に育てることが、これからの課題です。では、次回は手刺繍についてお話します。

「京都 手しごと案内帖」 普段の仕事場から VOL.16

金加工今回は、金加工についてお話しします。金加工とは、金や銀といった箔、金属粉などを着物に接着加工することを言います。着物をより華やかに表現する為に行う工程で、必要以上に金加工をしてしまうと、着物としての品格がなくなり、美しさも半減してしまいます。よって、センスが要求される工程といえます。そして、次の刺繍の工程と共に、着物の総仕上げの役割を担います。金加工の歴史は友禅よりも古く、桃山時代には現在に見られるある程度の技法が確立していたといわれております。また、金加工の技法は数多く存在し、目的に応じて使い分けられています。以下、いくつか紹介していきます。「摺箔」箔加工したい生地の部分に接着テープをはりつけ、摺箔する模様の輪郭をカッターナイフで切り抜きます。生地を絶対に切らないように注意が必要です。その為,カッターナイフは良く切れるものを使用します。切れないものを使用すると,力が入ってしまって、生地を切ってしまう恐れがあるからです。そして、型紙を生地の上に置き、接着剤を駒ベラという道具を使い型置きします。型置きが終われば、ゆっくりと型紙をはがし、接着剤の上に箔を置き軽く押さえて接着します。この時,強く押してしまうと型置きした模様がつぶれる恐れがあるので注意が必要です。接着剤が完全に乾燥したことを確認してから,ブラシで余分な箔を取り除きます。「押し箔」加工する部分全体に、箔や金粉(砂子といいます)を接着する技法です。加工したい部分に接着剤を均一に塗り、その上に箔を置き、軽く押さえて接着させます。この時、箔がシワにならないように、箔ばさみなどであつかいます。箔がはれたら後は自然乾燥させます。「金くくり」「筒描き」とも呼ばれ、着物の柄の糸目の部分を金線でなぞっていく技法をいいます。筒状のものに金糊を入れ、金線を置いていきます。力加減で、金線が太くなったり細くなったりするので、難しい工程といえます。「砂子技法」接着剤を塗った生地の上に、箔を細かくした金粉(砂子)を振り落として接着させる技法です。砂子には、竹筒や金属筒の片方に金網を張った「砂子筒」を用います。砂子筒に金箔を入れ、接着剤を置いた箇所に、刷毛で筒の中の箔をもみ落とします。「切箔」箔をさいの目に切った形や細かい糸状に切った形のものを、不規則に撒いた様に表現する技法です。「プレス加工」着物を染める際に、蒸し工程にも耐えられる接着剤をあらかじめ着物につけておき、特殊な機械で金箔を接着する技法です。シリンダーの温度を上げ、圧力をかけて金箔を着物に接着させます。以上が,金加工の主な技法です。着物の種類や柄によって、使い分けていきます。次回は、刺繍についてお話します。

「京都 手しごと案内帖」 普段の仕事場から VOL.15

整理今回は整理の工程を説明させていただきます。京都では、整理屋さんと呼ばれる加工屋がこの工程を受け持っています。重要な工程にもかかわらず、以外と知られていないのが整理の工程です。整理とは、染色工程によって様々な加工によって変わってしまった生地の巾、長さ、風合いを最後に整える工程です。生地に蒸気を当ててシワを伸ばし、生地幅や生地の長さを生地本来の寸法に戻します。また柔軟加工をして生地の風合いをも整える工程です。この時に生地に張りを持たせる加工や、撥水加工や堅牢度を上げる加工、抗菌。防虫加工等様々な加工を行う事もあります。生地と生地をミシンで縫い合わせ機械を通せるように準備した生地を、まず液柔軟剤の中を通します。その後、柔軟機の中を通し機械柔軟を行います。染色工程で染色用ののりや染料等により固くなってしまった生地の風合いを元に戻すために行う加工で、生地の状態により加工方法、柔軟剤の内容などを細かく変えていきます。最後に蒸気が出ている“のし”の機械で生地幅を揃えながらしわを取って終了です。アイロンでは伸びにくいような皴もかなり綺麗に伸ばす事が出来ます。特に強燃糸(きょうねんし)の縮緬(ちりめん)や絞りなど濡れると縮む生地など特殊な生地を整えるのに適しています。またこの工程は、生地の巾を揃えること以外にも表面のシボ立ち等状態を揃えることで、生地の光沢を出したり生地質を安定させる目的もあります。職人が一反ずつ反物の種類と状態を見て、長年の経験によって生地に合わせたのしを行っています。あまり引っ張りすぎても生地の風合いが悪くなりますし、きっちり寸法だしをしておかないと着物の仕立て上がりの寸法等の狂いが起きます。この整理の工程も他の工程と同じように非常に専門性の高い工程で、生地の種類、生地幅、加工内容、そして所有している加工用機材によって出来ることが変わってきます。私たちメンバーの中には、整理工程だけで10軒もの取引先があるものもいます。次回は金加工を説明させて頂きます。

「京都 手しごと案内帖」 普段の仕事場から VOL.14

蒸し、水洗今回は、蒸しと水洗についてお話しします。VOL.13でお話ししました引染工程が終わりますと、生地に染料を定着させる為の蒸し工程に移ります。引染の段階では、染料は生地の上にのっている状態ですが、蒸すことによって染料が生地に定着し、発色も完全なものになります。写真のような内部が木で覆われた蒸し箱の中に生地を入れて、蒸します。まず最初に、蒸す前に湿らせた挽粉(ひっこ)を生地に振りかけます。挽粉とは、木材を切断した時に出る木の粉のことです。生地が乾燥していると発色が悪くなるため、水分を加える必要があります。この挽粉によって生地に適度な湿気を与えます。挽粉を振りかけてしばらく時間をおくと、生地に水分が移って発色が良くなります。薄い地色の着物は、この工程を行わないこともあります。次に、蒸し箱に入れる枠に生地を吊っていきます。この工程を、「ピンがけ」と言います。これは、枠の両端に付いている針(ピン)に生地を掛けて吊っていくためにそう呼ばれています。生地の色や柄、生地の状態などを見て針にかける間隔を調整します。この時に生地同士が擦れて色糊や染料がつかないように新聞紙を間にはさみながら掛けていきます。単調な作業に見えますが、熟練職人の技が要求されます。細心の注意を払う工程と言えます。次に、蒸し箱に生地を入れます。通常は、約100℃の蒸気で50分くらい蒸します。濃い地色の場合は、2回蒸します。この蒸し時間はあくまでも目安であり、温度、生地の乾燥状態、染料の種類や相性で微妙に異なります。蒸し箱内の温度と蒸気量、時間の調整は、職人が培った長年の経験が頼りです。一歩間違えると思っているような色が出なかったり、色落ちの原因となる場合があり、とても重要な工程です。蒸気の温度と水分が発色の立役者と言えます。次に、水洗い(水洗)の工程に移ります。蒸しで友禅糊の中の色素の成分が生地に定着した後、余分な糊を落とすためにこの工程を行います。かつては、友禅流しと呼ばれ、京都市内の鴨川や桂川といった大きな川でも行われていました。現在は環境問題もあり直接川に生地を流して水洗いすることはできなくなりましたが、年に一度だけ、8月の第一土・日曜日に鴨川の三条四条間で行われている京の七夕内のイベントとして友禅流しの実演が行われています。長時間流水にさらし、色糊を十分にふやかし生地から剥離させ、その後振り洗いをし、仕上げた後乾燥室にて干します。最近は、水洗いから乾燥まで一貫で行う事が出来る機械式の水洗器が主流です。強力なシャワーで余分な色糊を取り除く事が出来ます。次回は、のしについてお話しします。

「京都 手しごと案内帖」 普段の仕事場から VOL.13

「引き染め」後編前編で説明した「地入れ」が終わるといよいよ地色を染める為の引き染めの工程に入っていきます。引き染めには大きく分けて二つの染め方があります。まず一つ目が、「引っきり(無地引き)」です。その名の通り、生地の端から端まで同じ色で刷毛を使ってムラなく染めていく技法です。薄い色から濃い色まで様々な色がありますが、特に濃い地の紫色、緑色をムラなく均等に染めるのは非常に難しく職人の腕の見せどころです。もう一つは「ぼかし染め」です。「引っきり(無地引き)」よりも難しく、色数が増えるにつれて手間がかかり、技術のいる作業になります。例えば、多色ぼかし(ミックスぼかし)で染める場合、色のコントラストによってはきれいに染めることが大変難しくなります。また、濃い地と濃い地の間に薄地を染める場合、薄地の箇所に濃い染料が付着しないように染めるのが熟練職人の経験が成せる技です。このぼかし染めを行うにあたり、Vol.10、11でお話ししました板場の友禅工程の最後で、青花(露草の一種から採取した汁)でぼかしあたりというものを描きます。青花とは露草から採った青い液で、色が鮮やかで水に溶けやすく下絵を書くのにとても適しています。青花の栽培も近年減少し、天然青花は貴重な原料となっています。ぼかしあたりにより引き染め職人は、地色とぼかし色を染め分けて染めることができます。ぼかし染めには様々な技法がありますが、またの機会にぼかし染めの種類は説明させていただきます。次回は、蒸し、水洗をご説明させていただきます。

「京都 手しごと案内帖」 普段の仕事場から VOL.12

「引き染め」前編「地入れ」友禅染めにより生地に柄が染め上がるといよいよ地色を染める「引き染め」の工程に入っていきます。まず「地入れ」という工程を行います。「地入れ」とは引き染めをする前にする作業です。染めむらや滲(にじ)みを防ぐための工程です。地入れにより、伏せ糊と生地を密着させ染料が伏せ糊の内側に差し込むのを防ぐ役割があります。地入れには、豆汁や布海苔(ふのり)液をまぜたものを用います。布海苔(ふのり)とは、海藻の一種で糊料として適しています。生地の種類や染料の濃度、季節により、微妙に地入れ液を調節するのが、熟練職人の技です。まず生地の両端を張り木で引っ張ります。張り木とは、生地をしっかり固定してシワになら無いように張る道具です。次に伸子(しんし)針でシワができない様に細かく伸子かけをしていきます。1反につき、約50〜60本の伸子針を使用します。この工程により、生地がシワなく水平になり、染めむらを防ぐことができます。そして生地の隅々まで、まんべんなく職人が丁寧に刷毛で染めていきます。染めた生地は、天井に一反、一反吊るして生地に浸透するのを待ちます。最近では、職人の手間を省くため機械地入れも導入されています。この「地入れ」作業が終わると色合わせの工程に進みます。次に、注文に応じた地色を生地に染めますがVOL.2で紹介した友禅糊の色合わせと同じ様に引き染めでも各工場ごとに何千、何万という蓄積されたデータ―を管理しています。その色データを元に配合していきます。そしていよいよ「引き染め」の工程に進みます。次回は、「引き染め」後編をお話しします。